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■緑と風と光の家
 この住宅は先代からの土地の一部を受け継ぎ,慣れ親しんだこの地に,親戚の住まう住宅に隣接した敷地に夫婦二人のための家として建築された。
 ここ田園調布は,渋沢栄一の描いた,風通しの良い高台に,緑に溢れた田園都市を創るという,1923年の分譲当時の理念を護るため,道路からの2mのセットバックや緑の保全などが田園調布憲章として定められ,現在まで引き継がれている。
 敷地は道路に接して造られた大谷石の擁壁の上にあり,東面は大きく梢を延ばした桜並木に面している。
 こういった敷地の特徴を最大限に生かす様設計は進められた。まず,敷地角には道路に沿った大谷石の形を写してコーナーの丸いL型の壁が建てられ,これに桜並木の景色を切り取る様,大きなピクチャーウィンドウを開けることにした。
 そしてこのL型の壁沿いに2層の細長い吹き抜けを設け,上部にはトップライト,壁の両端には,2層の高さの通風用スリットを設けた。
 リビングでこのL型壁の前に立つと,明るく照らし出された桜並木の緑が目に飛び込み,トップライトからの光とスリットからの風が祝福してくれる。
 振り返って隣の家の方に目を向けると,親戚の緑に溢れた空間まで,幾つもの空間がレイヤーとなって重なり合いながら連続し,昔からここにあった緑の空間全体で包み込んでくれる。
 この最初のレイヤーはガラスとステンレスの飾り棚で,ここに緑が写り込み増幅される。この棚の向こうの次のレイヤーは,インナーバルコニーで,玄関と階段室の役割を担う。外に出ると西側にはパーゴラがあり,インナーバルコニーの空間をさらに外に連続させ,入り口の外部空間を形成する。
 このパーゴラ下の空間は,地区計画に規定される隣地から1mセットバックした所にある高さ1.2Mのコンクリートの塀と,植栽帯で構成されるレイヤーで緩く枠取りされ,隣家の緑へと受け継がれている。
 2階の寝室は1階から立ち上がるL型壁と細い吹き抜けに囲まれ,桜並木を愛でる為のバルコニーがこの吹き抜けを渡って外へと開かれている。南側は唐紙の貼られた屏風折戸で仕切られ,開ければ爽やかな風と光に満たされる。
 この地の特性を引き出そうと設計を続けたが,最後には,風通しの良い高台に緑溢れる田園都市の理念そのものが,強く反映された家となっていることに気づいた。
あたかも,緑陰の中のフォリーで寛ぐように。
(新建築住宅特集より抜粋)

所在地:東京都大田区
用途:専用住宅
構造:鉄筋コンクリート造
延床面積:145.31m2
構造設計:構造計画プラス・ワン
設備設計:島津設計
施工:大同工業
写真:小川重雄
  *矢板建築設計研究所

雑誌掲載
・新建築住宅特集 2014年07月