EN/JP

IL TEMPO   

 敷地は代官山駅と恵比寿駅の間に位置し、所謂西渋谷台地の端にあたるところである。代官山駅からこの敷地に向かって歩いていくと、ここから坂道が下り始めており、ちょうどケーブルカーの頂上の駅のようなところにこの建物はある。 前面道路は敷地の北側にあり、通常このような条件下で集合住宅を計画する場合、南向きに居室を並べるため、共用廊下と住戸の玄関だけが通りに面することとなり、街に対して背を向けた格好になることが多い。この計画で重視したことは、街に背を向けることなく、街に顔を向け、街を積極的に演出することのできる建築とすることであった。
 この課題を解決したのが、メゾネット形式の住戸の採用であった。これにより建物の南と北の両面から採光することが出来るようになり、街に対してもはっきりと顔を向けた建物とすることができた。このメゾネット形式の住宅は一本の共用廊下を介して上るユニットと下がるユニットを互い違いに組み合わせてある。そしてこの共用廊下までの動線は、地下の店舗の階段から始まり、表に出て店舗の吹き抜けを中心として建物の周りに巻き付けられたスロープを上り、集合住宅のエントランスホールへと至る動線へと連続している。

その結果、5層の高さがありながら、建物を縦に貫く階段をなくすことができ、建物内での移動は閉鎖空間に入ることなく行えるようになった。言わばこの建物全体を上下に渡って回遊するという感覚を獲得するに至り、建物内を歩くこと自体が、街歩きと同じような感覚を導入することができた。下層部分の店舗は建物の全幅を占めており、この建物の廻りを回るスロープの中心に吹き抜けのある店舗空間である。ここの7mの天井高は建物断面高さの約半分が与えられたものであり、ハイサイドライトやトップライトにより地下でありながら光溢れる空間となっている。この店舗空間のヴォリュームは付近でも稀な大きさを持っている。この大きさそのものが将来まで保持しうる価値となると考えている。この建築では都市に於ける店舗付き都市住宅としての一つの有り様を示せたと感じている。即ち、街を楽しみ、街の賑わいを形成するひとつの媒体となることである。昔からここにあり、将来もあり続けるであろう佇まいとなることを願い、時間を意味するTEMPOと名付けることにした。

 敷地は代官山駅と恵比寿駅の間に位置し、所謂西渋谷台地の端にあたるところである。代官山駅からこの敷地に向かって歩いていくと、ここから坂道が下り始めており、ちょうどケーブルカーの頂上の駅のようなところにこの建物はある。 前面道路は敷地の北側にあり、通常このような条件下で集合住宅を計画する場合、南向きに居室を並べるため、共用廊下と住戸の玄関だけが通りに面することとなり、街に対して背を向けた格好になることが多い。この計画で重視したことは、街に背を向けることなく、街に顔を向け、街を積極的に演出することのできる建築とすることであった。
 この課題を解決したのが、メゾネット形式の住戸の採用であった。これにより建物の南と北の両面から採光することが出来るようになり、街に対してもはっきりと顔を向けた建物とすることができた。このメゾネット形式の住宅は一本の共用廊下を介して上るユニットと下がるユニットを互い違いに組み合わせてある。そしてこの共用廊下までの動線は、地下の店舗の階段から始まり、表に出て店舗の吹き抜けを中心として建物の周りに巻き付けられたスロープを上り、集合住宅のエントランスホールへと至る動線へと連続している。

その結果、5層の高さがありながら、建物を縦に貫く階段をなくすことができ、建物内での移動は閉鎖空間に入ることなく行えるようになった。言わばこの建物全体を上下に渡って回遊するという感覚を獲得するに至り、建物内を歩くこと自体が、街歩きと同じような感覚を導入することができた。下層部分の店舗は建物の全幅を占めており、この建物の廻りを回るスロープの中心に吹き抜けのある店舗空間である。ここの7mの天井高は建物断面高さの約半分が与えられたものであり、ハイサイドライトやトップライトにより地下でありながら光溢れる空間となっている。この店舗空間のヴォリュームは付近でも稀な大きさを持っている。この大きさそのものが将来まで保持しうる価値となると考えている。この建築では都市に於ける店舗付き都市住宅としての一つの有り様を示せたと感じている。即ち、街を楽しみ、街の賑わいを形成するひとつの媒体となることである。昔からここにあり、将来もあり続けるであろう佇まいとなることを願い、時間を意味するTEMPOと名付けることにした。

所在地:
東京都渋谷区恵比寿西
用途:
店舗+共同住宅(賃貸)
構造:
鉄筋コンクリート造
延床面積:
1102.89m²
設計:
矢板建築設計研究所
統括:
矢板久明 矢板直子
担当:
山﨑壮一 笹山恭代
構造設計:
構造設計社
設備設計:
ZO設計室
施工:
池田建設
写真:
平井広行

雑誌掲載

新建築 2003年11月号
TITLe 文藝春秋発行
 建築家の集合住宅 2003年10月

ディテール 2006年 秋季号
iA 09 2008年4月
ディテール2012年9月号別冊
 至高の階段