磯子台の家
Order is
Design is form -making in order
Form emerges out of a system of construction
Growth is a construction
In order is creative force
In design is the means ・・・
この言葉を、わたしはこの20年思い続けている。私が存在する以前より、オーダーはこの時この地にありと語りかけてくるのである。この思いが、与件から建設プロセスの全てにわたる観察を通して、この地にあるところの善きオーダーの発見と、創造力の源で有り続けたように思う。
敷地は横浜の丘陵地に造られた、雛壇状の造成地であり、通りから5m上にある大谷石の擁壁に支えられた地盤である。建て主は小学校に上がったばかりのお子さん2人がいらっしゃる30代の若いご夫妻であり、家族のための部屋と客間、車庫から直接入ることのできる設えと、そして何よりも木の質感のある家を望んでおられた。当初は既存の擁壁を基壇として生かし、その上に、各階に割り当てられる部屋を与件に従い、建物のヴォリュームを把握するように描き出していった。ここで立ち現れてくるのは車庫のある最下層部を基壇とし、その上に3層の建築が築かれるという構成である。当時は、この処理し難い4層のヴォリュームをどうにかして生かそうと、通りから上部の庭まで見通すことや、前面に階段を作って立面に動きを表現すること等、上方へ向かう動きのベクトルの表現にのみ解決の糸口を捜していたようである。このような時、決定的な案のないまま建て主との打ち合わせがあった。いつもは、ご夫妻だけでの打ち合わせが多かったが、その日はお子さん2人が、横のソファーで遊んでいる脇での打ち合わせであった。お二人のお子さんに対する眼差しや、子供たちの楽しそうに遊ぶ姿を見ていると、私も一瞬家族の一員に なったような嬉しい気持ちを感じていた。
その時、そうだ、この家族は一つの部屋に集うべきだ、という思いを抱いた。
子供部屋は眺めの良い道路側に置こう。
その前はお父さんがパソコンを使う時に一緒にいれるような机があるといい。
ここに座ると日に照らされた庭が見える。
居間も庭の一部にしよう。
食堂は朝日があたる東側だ。
オーダーの囁きが聞こえたようであった。
いろいろな問題が一気に解決していった。懸案であった客間も、寝室の仲間として、地下1階に納まり、夜の階の一員となった。これに対し1階は昼の階とでも呼べる家族の集いの場として、この家の主空間としての役割を得るに至った。一方で大きな課題が残っていた。基壇である。この場所で定められている第1種低層住居専用地域は、横浜市が1mの外壁後退を指定して居り、事前打ち合わせでも車庫は上部躯体と連続している限り、建築物であるのでこれに該当するとの判断が出ていた。そこで思い切って車庫の壁面を建物前面に十分な広がりができるまで通りから後退させる決断をした。これにより入口に出会いの場としてのエントランスコートが出現することとなった。もはや基壇は姿を消していた。しかし、大変な根切り量である。西側の隣地に接する外壁面は地下2階の車庫までまっすぐ下りていくため、特に仮設工事が困難なことが解った。これをさけるため、建物の全幅を縮小して西側隣地との距離を広げ、玄関前から庭に上がる外部階段を造ることにした。この結果顕れてきたのが、入口のエントランスコートから庭を通って居間へと至るひとつの螺旋状の空間である。
これなら、道路面から上の庭までを一体の空間とすることが出来、キッチンからのゴミ出しはもちろんのこと、植木やさんの出入りにも丁度良い。そして、建物の全幅を縮めるために子供部屋を食堂の方へ移動したことで、居間は庭の方へ押し出され、食堂とのくびれが強くなり、さらに庭との一体感を強めていた。ここに庭と建物は2つの重なり合った正方形として浮かび上がって来た。両者の中間のものとしてデッキを造ることは、必然のようにも思われた。フォームの結実を感じた。これをきっかけに、建物全体をカーンから学んだ比例を用いて改めて観察してみると、大小の正方形や3:5の比を持つ矩形の広がりが、いくつも重なりあって見出され、階高や天井高もこれに基づき調整された。五線譜に踊る音符のように、平面と高さが数と戯れた。意識の領域として、心の安らぎの形として、家族の集う心の場所を求めて。
主階は建て主の好きな木でくるむことにした。丁度、家族が一つに包まれるように。
Design is not making Beauty
Beauty emerges from selection
affinities
integration
love ・・・
Kahn," Order Is," Perspecta 3,1955: p59
(新建築住宅特集より抜粋)
観察、直感、order:心の宿る場所を求めて
Order is
Design is form -making in order
Form emerges out of a system of construction
Growth is a construction
In order is creative force
In design is the means ・・・
この言葉を、わたしはこの20年思い続けている。私が存在する以前より、オーダーはこの時この地にありと語りかけてくるのである。この思いが、与件から建設プロセスの全てにわたる観察を通して、この地にあるところの善きオーダーの発見と、創造力の源で有り続けたように思う。
敷地は横浜の丘陵地に造られた、雛壇状の造成地であり、通りから5m上にある大谷石の擁壁に支えられた地盤である。建て主は小学校に上がったばかりのお子さん2人がいらっしゃる30代の若いご夫妻であり、家族のための部屋と客間、車庫から直接入ることのできる設えと、そして何よりも木の質感のある家を望んでおられた。当初は既存の擁壁を基壇として生かし、その上に、各階に割り当てられる部屋を与件に従い、建物のヴォリュームを把握するように描き出していった。ここで立ち現れてくるのは車庫のある最下層部を基壇とし、その上に3層の建築が築かれるという構成である。当時は、この処理し難い4層のヴォリュームをどうにかして生かそうと、通りから上部の庭まで見通すことや、前面に階段を作って立面に動きを表現すること等、上方へ向かう動きのベクトルの表現にのみ解決の糸口を捜していたようである。このような時、決定的な案のないまま建て主との打ち合わせがあった。いつもは、ご夫妻だけでの打ち合わせが多かったが、その日はお子さん2人が、横のソファーで遊んでいる脇での打ち合わせであった。お二人のお子さんに対する眼差しや、子供たちの楽しそうに遊ぶ姿を見ていると、私も一瞬家族の一員に なったような嬉しい気持ちを感じていた。
その時、そうだ、この家族は一つの部屋に集うべきだ、という思いを抱いた。
子供部屋は眺めの良い道路側に置こう。
その前はお父さんがパソコンを使う時に一緒にいれるような机があるといい。
ここに座ると日に照らされた庭が見える。
居間も庭の一部にしよう。
食堂は朝日があたる東側だ。
オーダーの囁きが聞こえたようであった。
いろいろな問題が一気に解決していった。懸案であった客間も、寝室の仲間として、地下1階に納まり、夜の階の一員となった。これに対し1階は昼の階とでも呼べる家族の集いの場として、この家の主空間としての役割を得るに至った。一方で大きな課題が残っていた。基壇である。この場所で定められている第1種低層住居専用地域は、横浜市が1mの外壁後退を指定して居り、事前打ち合わせでも車庫は上部躯体と連続している限り、建築物であるのでこれに該当するとの判断が出ていた。そこで思い切って車庫の壁面を建物前面に十分な広がりができるまで通りから後退させる決断をした。これにより入口に出会いの場としてのエントランスコートが出現することとなった。もはや基壇は姿を消していた。しかし、大変な根切り量である。西側の隣地に接する外壁面は地下2階の車庫までまっすぐ下りていくため、特に仮設工事が困難なことが解った。これをさけるため、建物の全幅を縮小して西側隣地との距離を広げ、玄関前から庭に上がる外部階段を造ることにした。この結果顕れてきたのが、入口のエントランスコートから庭を通って居間へと至るひとつの螺旋状の空間である。
これなら、道路面から上の庭までを一体の空間とすることが出来、キッチンからのゴミ出しはもちろんのこと、植木やさんの出入りにも丁度良い。そして、建物の全幅を縮めるために子供部屋を食堂の方へ移動したことで、居間は庭の方へ押し出され、食堂とのくびれが強くなり、さらに庭との一体感を強めていた。ここに庭と建物は2つの重なり合った正方形として浮かび上がって来た。両者の中間のものとしてデッキを造ることは、必然のようにも思われた。フォームの結実を感じた。これをきっかけに、建物全体をカーンから学んだ比例を用いて改めて観察してみると、大小の正方形や3:5の比を持つ矩形の広がりが、いくつも重なりあって見出され、階高や天井高もこれに基づき調整された。五線譜に踊る音符のように、平面と高さが数と戯れた。意識の領域として、心の安らぎの形として、家族の集う心の場所を求めて。
主階は建て主の好きな木でくるむことにした。丁度、家族が一つに包まれるように。
Design is not making Beauty
Beauty emerges from selection
affinities
integration
love ・・・
Kahn," Order Is," Perspecta 3,1955: p59
(新建築住宅特集より抜粋)
- 所在地:
- 神奈川県横浜市磯子区
- 用途:
- 専用住宅
- 構造:
- 鉄筋コンクリート造+木造
- 延床面積:
- 208.98m²
- 設計:
- 矢板建築設計研究所
- 統括:
- 矢板久明
- 担当:
- 山﨑壮一
- 構造設計:
- 構造設計社 杉浦克治
- 設備設計:
- 島津設計 島津充宏
- 施工:
- 建築プロデュース研究所
- 写真:
- 平井広行
* 新建築社写真部
雑誌掲載
・新建築住宅特集 2001年3月(表紙)
・GA JAPAN 49
・I'm home 2002年 winter
・VERY 2002年10月
・MEMO 2001年8月
・建築文化 2001年6月(No.653)
・建築家と家を建てたい
朝日出版 2001年12月
・こんな「いい家」がつくれる
・PHP研究所 2003年12月
・最高にステキな間取りの図鑑
2012年2月
サイト掲載
・All About